お口の健康コラム

むし歯予防の味方! 歯を守るフッ素の使い方

様々な食べ物に含まれている糖分はむし歯菌の大好物です。そのむし歯菌に負けないように歯を守ってくれるのがフッ素です。むし歯予防に効果があると言われているフッ素を上手く活用して、むし歯菌に負けない強い歯を作っていきましょう。

1.フッ素ってなに?

「フッ素でむし歯予防しましょう」というキャッチフレーズをよく聞かれることと思います。歯科でいう「フッ素」とは、どのようなものをいうのでしょうか?

フッ素は自体は原子番号9の元素であり、原子量は最も軽いハロゲン元素です。 通常単体で存在することはなく、歯科ではカルシウムと結びついた「フッ化カルシウム」、ナトリウムと結びついた「フッ化ナトリウム」など、必ず他の物質と結びついた「フッ素化合物」として存在し作用するのです。

また、ほとんどの食品に含まれていると言われるミネラル成分の一つですから、とても身近なものだと言えます。

【フッ素を多く含む食品例】

2.フッ素にはどんな効果があるの?

フッ素はむし歯の発生を防ぐ効果があり、むし歯予防に有効な成分だと言われています。フッ素と呼ばれるものには様々な種類がありますが、むし歯予防に使用されるフッ素は主に「フッ化ナトリウム」「フッ化リン酸ナトリウム「フッ化第一スズ」の3つです。 その中でも「フッ化ナトリウム」を使用する機会が多く、歯科医院で行うフッ素塗布もこちらを使用している場合が多いです。では、その効果をみていきましょう。

① 再石灰化の促進

口の中は通常中性に保たれていますが、食事をとるたびに歯の成分であるカルシウムやリンが溶け出して酸性に傾き(脱灰)、唾液の力で再び中性に戻る(再石灰化)ということを繰り返しています。酸性に傾いている時間が長ければ長いほど、歯が溶かされ虫歯となってしまうのです。そこで、その唾液中に溶け出したカルシウムやリンの再石灰化を促進させ、虫歯予防効果を発揮します。

② 歯質強化

歯の表面を保護しているエナメル質は、柱上の組織の集合体です。 この組織が生えてすぐの歯はまだ密度が薄く、乳歯や生えたばかりの永久歯の歯質はとても柔らかいため、フッ素を摂り込み歯質の密度を向上させることで酸に強い歯に導くことができます。

③ 酸の産生を抑制

歯垢(プラーク)が作るむし歯の原因菌の活動を弱めることによって、産生される酸の量を抑えます。 作られる酸が減ることで歯が溶かされるリスクが減り、虫歯予防につながるのです。

3.フッ素が体に害を及ぼす危険性はある?

フッ素は、世界保健機構(WHO)で安全性が認められています。しかし、 どんなお薬でも誤用や多量摂取など で中毒症状が起きるこという報告があるように、フッ素においても危険性はゼロではありません。 では、多量に摂取してしまった場合どのような事が起きるのでしょうか。

3-1.急性中毒

一気に多量のフッ素を飲みこんだことによって起こる、吐き気や嘔吐、腹痛などの症状です。 フッ素で急性中毒を起こしてしまう量は、体重1Kg当たり2mgと言われています。

10㎏前後の1歳児が一度に誤って飲んでしまったとして20mgという目安になります。 かなり多い量でないと中毒症状が現れないことがお解りいただけると思います。

<フッ素配合洗口剤に含まれているフッ素の量>

・毎日使うタイプ→約1.6mg

・週1回使うタイプ(濃度の濃いもの)→約6.3mg

お薬と同じで、濃度が薄いものであれば毎日使用しても中毒症状を起こすことはありませんが、濃度の濃いものになると一度に誤って多量に飲み込んでしまうと中毒量となる危険性もあります。特に小さいお子さんは要注意ですので、保管場所などに気を付けてくださいね。

3-2.慢性中毒

海外では、むし歯予防のために水道水にフッ素を加えている国もありますが、そういう飲料水を長年にわたり摂取をし続けた場合に起こる症状です。

1.斑状歯(はんじょうし)

あごの骨の中で歯ができる時期から長年にわたり適量の約2~3倍以上のフッ素を継続して摂取した場合に起こるものです。白い班点や縞模様のようなものが歯の表面に現れます。

2.骨硬化症(骨フッ素症)

適量の約10倍以上を長年にわたり摂取した場合に起こることがあります。骨の異常ですが自覚症状はなく、レントゲンを撮って初めて分かります。 ご紹介したように、気づかないうちに高濃度のものを長期に使用していることによって、慢性的症状として歯や骨に障がいが起こってしまう事もあります。

日本ではなかなか起こりにくいですが、市販の高濃度のフッ素をまだ幼いうちから多量に使用するようなことは控えましょう。

3-3.現時点で解明されていないが、関連が示唆されているもの

・発育期の男の子にみられる骨肉腫

・若い女性からのダウン症児の出生

フッ素の危険性が指摘されるのはあくまでも誤飲や多量摂取をしてしまった場合ですから、適正量とその許容量を理解したうえで使用すればフッ素はむし歯予防に対し身近で有効だと言われています。

 

年齢別、性別のフッ化物適正摂取量 AIと摂取許容量 UL

4.日本と諸外国、フッ素の活用法の違い

近年日本ではむし歯予防への意識が高まり、昔に比べ子どもたちがむし歯になる割合も減ってきています。しかし、日本と比べむし歯予防や歯への関心が高い国では、生涯むし歯を作らずに過ごす人がいるのも事実です。歯に対する情報量や意識の違いもあるかもしれませんが、フッ素の活用方法にも違いがあるようです。

日本

食品や飲料水などに含まれ日常で無意識に摂取してしまうもの以外では、基本的に口腔ケア用品に含有され使われています。ケア用品への含有量は薬事法によりフッ素濃度が全て1500ppm以下とされています。

※これまで上限1000ppmだったフッ素濃度ですが、平成29年3月17日厚生労働省により、一般用の歯磨き粉に含有することのできるフッ素濃度が1500ppm(0.15%)まで可能と認可されました。ただし中毒量を考慮し、6歳以下の小児に関しては使用できない事となっておりますので注意してくださいね。

海外

フッ素は骨や歯などに存在し、むし歯の予防に優れていることから必須栄養素として考えられているため、口腔ケア用品以外にも様々な方法でフッ素が活用されています。口腔ケア用品は、フッ素濃度が1000ppm以上配合されているものもあります。

〈海外での利用方法〉

①水道水フロリデーション

家庭の水道水にフッ素を入れて、飲料として積極的に摂取する方法です。

②フッ化物配合錠剤

タブレットの感覚で摂取されており、ヨーロッパでは、錠剤が薬局で販売されています。

③フッ化物添加食塩

ヨーロッパの岩塩にはフッ素が混ざっていて、食事で使用する塩分とともに取り入れています。

 

その他に、フッ化物配合ミルク、フッ化物添加飲料水などがあります。

昨今、海外製品が通販サイト等で手軽に購入できる時代です。 諸外国に比べ、日本人の歯のエナメル質は薄く、同じように使っていてもダメージが大きい場合もあります。 海外製品を使用する場合は、フッ素濃度や使用方法をよくご確認の上利用されることをおすすめします。

5.フッ素配合のセルフケアグッズの紹介

市販されているケアグッズのフッ素濃度は、全て1,000ppm以下と低く、安心して毎日使えるものであり、ご家庭で歯磨きしながらむし歯予防を行えます。では、フッ素配合のセルフケアグッズにはどんなものがあるのか一部ですが紹介します。

①歯磨きペースト

ライオン チェックアップ歯磨き剤(歯科医院専売)

やわらかいペーストタイプで、泡立ちが少ないためゆっくり丁寧に歯磨きができます。低香味なのでフッ素で予防はしたいけど歯磨き剤が苦手という子にぴったりです。

②ジェルタイプ

ライオン チェックアップジェル(歯科医院専売)

ジェルは口の中に広がりやすい高分散性でありながらフッ素成分が歯面に滞まりやすいので、むし歯リスクが高い場合に歯磨き後の追加ケアに最適です。

③泡タイプ 

ライオン チェックアップフォーム(歯科医院専売)

フォームタイプは分散性が高いため、口の中のでこぼこした隙間にもフッ素を効果的に届けてくれます。唾は吐き出せてもうがいが苦手な乳幼児や矯正治療をされている方のケアにふ向いています。

④洗口液

ライオン チェックアップ 洗口液(歯科専売)

液体タイプはブラシも届きにくいような歯間部などの細部までフッ素を行き渡らせることが出来ます。ペーストやジェルなどの固形が口の中に残るのが苦手な方や矯正している方などにおすすめします。

⑤スプレータイプ

ゾンネボード製薬  レノビーゴ(ドラックストアで購入可)

フッ素濃度が100ppmと低いため、使用後にうがいをする必要がなく、乳歯が生え始める時期から使うことが出来ます。スプレーなのでシュッとピンポイントで乳歯に向けてケアできますね。

6.フッ素の効果を最大限に引き出す使い方

フッ素入りの歯磨き剤で歯磨きしているのにむし歯になるなんて、本当はフッ素って効果がないんじゃないの?なんて疑問をもったことはありませんか?むし歯予防を期待してフッ素を使うのであれば効果的に使うことが何より大切です。そのためにはどのような方法で使えばいいのかをお伝えします。

①毎日使う

フッ素の効果で述べたように、1日の中で口の中は脱灰と再石灰化を繰り返しています。酸に負けない強い歯を作るためには、一時的に取り入れても追いつきません。毎日コツコツと継続的にフッ素を取り入れる事が大事なのです。

②量を守る

「たくさん付けた方が効果があるのでは?」そう思っている方も多いのではないでしょうか。量を多くしたからといってより効果があるという訳ではありません。適量が大切です。年齢によって使用量の目安が異なりますので注意しましょう。

【使用量の目安】※歯ブラシの毛先に乗せる量です

<6ヶ月~2歳>  2㎜程度  

<3~5歳>    5㎜以下  

<6~14歳>   1㎝程度  

<15歳以上>   2㎝程度

③歯に停滞させる

フッ素は口の中(歯の表面)に長くとどめておくことで、よりその効果が期待できます。磨いた後は、約30分間飲食を控えてフッ素を歯に停滞させましょう。

④少量の水でうがいをする

何回もお口に水を含みうがいをしていませんか? 何度もゆすいでしまっては、お口の中にあるフッ素を全て吐き出してしまうことになり、効果が減少してしまいます。

7.いつから使用すればいいの?

諸説あるので一概には言えませんが、目安となる時期をご紹介します。

生後6ヶ月頃になると下の前歯2本が生えてきます。

乳歯や生え始めの歯は、柔らかくむし歯に侵されやすいため守らなくてはなりませんし、フッ素を取り込みやすい時期でもありますから、早くから塗るべきなの?と思われがちです。

しかし、歯の生え始めの頃にフッ素は不要とも言われます。その頃はまだフッ素を使わなくても前歯は唾液に守られているため、汚れをガーゼで拭うだけで良いと言うのが理由です。

 

ではいつごろから使用するのが一番効果的なのでしょうか?

今まで研究によってフッ素の安全性が確認され、適量での使用は飲み込んでしまっても問題ないとされてきました。しかし、食品ではありませんので健康への被害を心配される方もいるかと思います。 したがって、念のためうがいが出来るようになってからの使用が安心かと思います。

 

まだうがいが出来ないお子様でもつばを吐き出す事が出来れば大丈夫です。 また、 慣れてきたら歯科医院でフッ素塗布してもらうことも検討してもいいですね。 歯医者の雰囲気に慣れることも出来ますし子供の歯の状態をしっかり見てもらうことで安心感にもつながるのではないでしょうか。

8.成人のフッ素塗布

フッ素というと、子どものための虫歯予防というイメージがあるかと思います。確かに、フッ素が取り込みやすい乳歯に対してフッ素塗布を強く勧めている歯科医院は数多くあります。

しかし、成人の場合は率先してフッ素を勧めている歯科医院はあまり多くないように思います。そのはっきりした理由はわかりませんが、成人へのフッ素の効果の科学的根拠となるデータが少ないためかもしれません。 あえて使用するとするならば、次のような方へのフッ素の使用は同じようにむし歯のリスクを下げる効果がありますので、参考にご覧ください。

①歯周病により露出した歯の根

歯の根は、セメント質と呼ばれ歯質が弱く歯の一番表面であるエナメル質よりむし歯になりやすいと言われています。 フッ素で歯質を強化することにより、現状よりも虫歯になるリスクを下げる効果を期待します。

②部分入れ歯を使用の方

部分入れ歯の針金をかける歯は、プラークが溜まりやすく、唾液が流れにくいためむし歯になりやすいと言われています。 そこで通常の歯磨きに加え、フッ素を取り入れることにより、残存ずる歯の虫歯予防効果を狙います。

9.まとめ

フッ素はいたずらに危険なものだと構えるのではなく、作用機序や濃度の計算方法などを知っていれば危険なものではありません。 

中には生まれつき歯質の弱い方や、障がいをお持ちで歯磨きが行き届かない方には予防効果を発揮してくれる強い味方ともいえます。 

用法・容量を守り、自宅での保管方法などに気を付けて、生活の中に無理なく取り入れてみてくださいね。 
また、フッ素は汚れを落とした歯に塗ることでより効果が発揮されます。前回お伝えした「正しい歯磨き方法」と一緒に今回のフッ素の使い方を実践していただければ、むし歯のない健康なお口を守っていくことが出来ます。 

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