みなさんはお口の機能を向上させることが、より健康な身体につながることはご存知でしょうか? 「お口は健康への入り口」とも言われ、お口の機能を育てることで、風邪やインフルエンザにもなりにくい健康な身体に導くことができるのです。 今回はお口の機能である「口腔機能」を育成することがどのように身体に作用するのか考えてみましょう。
「口腔機能を育成する」とは?
「口腔機能育成」とは、お口が関係する「食べる」「話す」「呼吸する」といったような生きるために必要なことを育てることです。
昨今、10人中8人の子供たちの歯並びに、何らかの不具合を抱えているといわれています。
そこでまずは、お口周辺の機能を育てることの大切さを知っていただきたいと思います。
1.昨今の子どもたちが抱えるお口の事情
現代は食生活も生活のスタイルも大きな進化を遂げ、便利な世の中になりました。
しかしお口の機能は人間が誕生した何千年も昔から、ほぼ変わりありません。 日本人でいえば、農耕をはじめた弥生時代からこれまで1度の食事で噛む回数が6分の1に減少しているというお話を前回のコラムでもご紹介しましたね。
これらの変化がもたらした、昨今の子どもたちが抱えているお口の不具合とはどんなことがあるでしょうか。
2.子どもたちの歯並にびに不具合が多い理由とは?
まず、柔らかい食事やインスタント食品、コンビニで手軽に購入できる食品などの普及により、噛む回数が大幅に減少しました。
お口周辺の筋肉が発達不足であれば、顎の成長がうまくいきません。
また、舌の筋肉も衰えることで、本来あるべき位置に舌が納まらないことでも不具合に繋がります。
このように、現代の子供たちは、「便利さ」という生活スタイルの向上は手に入れても、お口の機能自体は気づかないうちに発達不足になってしまっているということなのです。
口腔機能の発達不足とはどんなこと?
お口の機能の発達が成長と共に上手くいかず、身体に悪影響を及ぼすことをご紹介しましたが、具体的にどのような状態を発達不足とするのでしょうか?
1.お顔が緩んでしまう「口輪筋」
素敵な笑顔は、お口の両端の口角(こうかく)がしっかり引きあがってこそ作られます。
また、喜怒哀楽を表すコミュニケーション能力の高さは、表情の豊かさから作り出されるものです。
これらはお口周辺にある「口輪筋(こうりんきん)」によってつくられ、表情筋と密接な関係にあります。
口輪筋の発達不足で口元に締まりがなくなることも口呼吸につながってしまいますし、お口をしっかり動かすことができないと、顎の成長や歯並びを整える手助けも難しくなってしまいます。
2.口呼吸の原因となる「低位舌」
人間が平常時に呼吸を行うときは鼻呼吸です。
舌の筋肉が発達していれば、口は閉じたままで舌は引き上げられ常に上あごに密着しています。 食事の際に飲み込む場合も、舌をしっかり動かして上あごにつけることができるため、お口を動かしていることで自然に顎を押し広げる力が働きます。
しかし舌の筋肉が弱いと、舌が上あごに引き上げられず下に下がってしまい、口が開いて口呼吸になりやすいのです。
この状態を「低位舌(ていいぜつ)」といいます。
3.歯並びが悪くなる「歯列不正」
舌がしっかりと発達し、上あごを押し広げる運動がおこなわれると、歯が並ぶ歯列(しれつ)が綺麗なアーチ状に成長します。
低位舌の場合、上あごの成長がうまく行われず、狭いU字型やV字型の歯列になってしまいがちです。
この成長は3歳頃までにおこなわれるため、このあとの歯並びに大きく影響を及ぼすことになります。
歯列が狭いと、限られたスペースの中に大きな永久歯が並びきれずに歯並びが悪くなってしまう原因となるのです。
口腔機能の発達不足を感じるサインを知りましょう!
もしもこれからご紹介するような症状が診られたら、もしかするとお口周辺の機能が発達していないことにより起こっているサインかも知れません。
口腔機能と関連が考えられる、身体から起こるさまざまなサインをご紹介します。
1.猫背で気づくといつも口がポカーンと開いている
本来人間は正常時に口を閉じて鼻で呼吸をするものです。
しかしお口の機能が弱いと口呼吸になる傾向が強く、常日頃からお口がポカーンと開いたままになってしまいます。
そして口で呼吸するためには、気道が大きく開くように顎を挙げがちになり、自然と肩が前に下がって猫背になってしまうのです。
2.ごはんを食べるときにクチャクチャ音をたてて食べる
食事を口に運んだあと、本来は口を閉じたまま歯を動かして食物を噛み砕き、すりつぶして唾液と混ぜ、喉に送り込む働きをおこないます。
口元の筋肉(口輪筋)が弱いとお口を閉じることが困難なため、噛む動作をおこなう際にお口が開いてしまい、クチャクチャと音を立ててたべてしまうことになります。
3.うつ伏せや横向きなど、寝る時の体制が悪い
お口の周りの筋肉が弱いことで呼吸がしづらく、うつ伏せや横向きの体制でお口を開けたままになりがちです。
また、舌の筋肉が弱いため、寝ている間は余計に舌の位置が喉の方へ下がります。
寝ている間にお口の中が渇いてしまったり、いびきをかいくといった不具合が起こりやすくなります。
質の良い睡眠が取れず、寝起きが悪く不機嫌になりがちであったり、眠れていないことで昼間に無気力になりやすくなってしまいます。
4.鼻炎や扁桃炎になりやすい(風邪やインフルエンザになりやすい)
年中鼻炎や扁桃炎に悩まされているという人や、冬になると風邪を引きやすいという方は、もしかするとお口の機能が弱いことが関わっているかもしれません。
鼻炎や扁桃炎の方は、多くの方が口呼吸です。
本来の鼻呼吸であれば、鼻がフィルターの役割をして病原菌をシャットアウトしてくれますが、口で呼吸していると、外にいるさまざまな病原菌を直接口から身体に摂り込んでしまいます。
そこで、お口の機能が弱いことで口呼吸をしていると、鼻炎や扁桃炎を慢性的に発症してしまったり、流行り病に感染しやすい身体になってしまうことが考えられます。
5.ごはんを食べるとき、机に真っすぐ向かい床に足を付けて食べていない
お口の機能として、まず口の筋肉を使って食べ物を捕らえることから始まります。
この「お口を閉じてお箸(スプーンやフォーク)から食べ物を捕らえて口内に送り込む」という動作は、地に足をしっかり着けて踏ん張り、身体を若干前へ傾けて机に前のめりになる体勢であればしっかりお口に力が入りスムーズにおこなうことができます。
この機能は、離乳食を開始する頃から大切で、テレビを消し、地に足がしっかり着く高さの椅子で、机の高さもちょうどよい高さを意識しておこなうことが大切なのです。
6.表情や口元にしまりがない
お口周辺の筋肉や唇の筋肉が発達していないと、口元に締まりがなく、表情を作ることが苦手になります。 また、口の両端の口角(こうかく)が下がって、いわゆる「への字口」になっていたり、唇が分厚く「アヒル口」になっている口元。
唇を閉じると口元が緊張して、顎のあたりが梅干しのようにシワがよってしまう口元など、見た目にも影響してくるのです。
サインをそのままにしているとどうなるの?
身体が出しているサインが、お口の機能不全によるものだと気づかずに生活していると、全身にさまざまな悪影響として現れることがあります。
これからご紹介する症状は、もしかするとお口の機能不全が関係しているかもしれません。
1.どんな悪影響が考えられるの?
以下に、口腔機能がうまく成長しなかったために起こり得る身体の不具合をご紹介します。
・鼻炎、アデノイド肥大
・アトピー、ぜんそく、花粉症
・歯列不正、顎関節症
・虫歯、歯周病
ひと昔前、アトピーやぜんそくのお子さんはあまり聞かなかったと思いますが、最近では身近にたくさんいる気がしませんか?
アトピーやぜんそくの原因が特定できないとしても、昨今の食生活や生活習慣の変化によるものから連鎖して、お口の機能不全が関わっていることも考えられるでしょう。
身体に起こる病気を治しても、根本的な原因がお口の機能にあるとすれば、そこが改善されていないと再び同じ病気を発症する可能性があるのです。
2.「もしかしたら…?」とおもったら口腔機能育成を!
では、口腔機能育成を受けるにはどうしたらよいのでしょうか?
口腔機能育成のことを、歯科では「MFT」といいます。
後天的な筋肉の不調和を、お口の機能を発達させのトレーニングをおこなうことによって整える治療法です。 個々に違う症状に合わせた専門的な指導が必要となり、どの歯科医院でもおこなっているわけではありません。 事前に歯科医院のホームページなどを確認したり、電話予約の際に確認するなど、口腔機能育成をおこなっているかどうか確認しておきましょう。
そして、MFTは歯科医院に来院した時だけおこなうのではなく、レクチャーされたトレーニングを自宅で日々の生活の中に導入し、毎日のトレーニングはほぼ親子でおこなうため、家族の協力が必要不可欠となります。
お口周辺の筋肉を鍛えることの大切さ
先にご紹介した「お口周辺の機能が発達していないことにより起こっているサイン」を解消するためには、口腔機能育成をおこなうことで解消されることもあります。
また、できるだけけ幼い頃から口腔機能が育成されるように導くことで、事前に予防することにも繋がります。
1.早い時期から親子で口腔育成に取り組みましょう!
歯列は3歳頃までにある程度の形状を口腔機能によって形成します。 人間は産まれてからすぐ上あごと舌を使って母乳を飲むという機能を使うようになり、歯が生えると食物を捕らえて噛み切り、奥歯が生えると噛み砕きすりつぶすという機能を使うようになります。 そのプロセスに合わせたお口の機能をしっかり使うことによって、お口周辺の機能が正常に発達していくことにつながるのです。
2.もし悪習癖(サイン)に気付いたら…
すでに3歳を超えてしまったり、悪習癖が出始めているという方も諦めることはありません。
顎の成長は永久歯に生え変わる時期にも成長しています。
もちろん3歳以前から口腔機能育成に取り組むよりは難しいこともあるでしょうが、もしも矯正する場合でも、悪習癖が改善されているのとそうでないのとでは、矯正の進み具合や後戻りしやすさなどにも影響します。
また、お口の機能が整えば、身体に及ぼしている悪影響は改善されることにつながる可能性もありますので、諦めずにまずは口腔機能育成をおこなっている歯科医院にご相談されることをおすすめします。
3.日常生活の中にも口腔機能育成を取り入れましょう
本来、口腔機能を育成するのは日常生活のなかでおこなわれる自然な働きです。
それが失われつつある現代であるからこそ、歯科医院が補助しなければ口腔機能が上手に育成されない現状ができてしまっているのです。
親子で日常生活の中でできる「口腔育成」を意識して生活することで、今までなかった刺激を顎や舌に届けることができ、自然な口腔育成に繋げることができます。
噛み応えのある食材を使ったり、食材の大きさを工夫するなどよく噛む食事を意識したり、お口を使う遊びをたくさん取り入れたりする工夫をしてみてくださいね。
まとめ
しっかり鼻呼吸ができ、猫背でなく正しい姿勢で、しっかり挙上され発達した舌で嚥下するということは、正しい歯並びだけでなく全身の健康にもつながっています。
そうなんです!人が健康に生きていくためには「お口の機能がしっかり発達している」ということが欠かせないのです。
歯科医院でも口腔機能育成のお手伝いはできますが、大切なのは正しい知識を持ち、できるだけ早い段階から口腔機能育成を意識した取り組みを親子でおこなうということに意味があります。
まず今の日常生活を家族みんなで見直し、取り入れることのできることから始めてみませんか? 「何からやったらいいのか解らない」という方は、ぜひかかりつけの歯科医院や口腔機能育成(MFT)を導入している歯科医院にご相談くださいね。