by 418編集部
猛暑が過ぎ去り、ようやく秋めいてきましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか? 私が小児歯科に関わりはじめた20年前は、まだまだ歯列矯正に抵抗を感じる方も多くいらっしゃいましたが、最近では歯列矯正に取り組まれているお子さんをたくさん目にするようになりました。 矯正に対して抵抗が少なくなった傾向はみられますが、歯列矯正に関しての疑問や不安の質問は今だに多く受けています。 実際に取り組まれている方に関しても、半信半疑のまま始めていたり促されるまま始めてみたけど本当に始めてよかったのか不安という方もたくさんいらっしゃいます。 正解を決めることは難しい分野ですが、まずはみなさんにお子さんの「歯列矯正」について正しい知識を持っていただきたいと思います。
「子どもの歯列矯正」について正しく知りましょう
歯列矯正は単に歯が綺麗に並べば良いというものではありません。 まずはお子さんの歯列矯正や、歯並びについて正しく理解していただきたいと思います。
1.歯列矯正ってどんな治療?
不正咬合を正すことを「歯列矯正」といいます。 これだけ聞くと、歯を綺麗に並べることが目的のように感じますが、実は歯並びの悪さ(正式には「不正咬合」といいます)にはさまざまな種類があり、審美的に歯の並びだけを改善するだけではありません。
2.不正咬合とは
個々の歯の位置がガタガタに並んだ不正は勿論ですが、一見綺麗に並んでいても歯列弓(歯が並ぶ場所)の形態が歪んでいたり上下の歯列弓の位置のズレなども不正咬合のひとつです。歯の並びと歯列弓のズレそれぞれの場合も、両方の場合も全て「不正咬合」なのです。
3.不正咬合を治すのが、本当の「歯列矯正」
歯列矯正では前後のズレを整えながら、正しい歯列弓をつくり、上下の歯が咬みあうべき位置でしっかり噛めるように整えます。 これによって前歯は食べ物をしっかりと噛み切ることができ、奥歯は食べ物を噛み砕きすり潰すことができるようになります。並びだけでなく、歯が本来持った機能をしっかりと果たせるように整えるのが、本当の歯列矯正なのです。
4.なぜ歯列矯正が必要なのか
歯並びが悪いことのデメリットとして見た目が悪いということを気にされている方が一番多いのではないでしょうか。しかし実は、歯並びの悪さからお口だけにとどまらず全身に関わるデメリットが生じる可能性があります。顔や身体のゆがみ、不健康を招く恐れ、人に見せたくないという劣等感など、さまざまなデメリットがあることを知っていただきたいのです。
歯並びを整えるとこんないいことがあります!
「多少歯がガタガタでも食事できる」とか「奥歯は噛み合ってないけど、見た目綺麗だから」と安易に考えていませんか?一見歯並びが綺麗に見えても、全体的なバランスが整っていないと全身的にさまざまな不具合を起こすことがあります。 そこで、不正咬合を改善したことで得ることができるメリットをご紹介します。
1.虫歯や歯肉炎予防につながる
歯が前後ガタガタに並んでいたり重なって生えていたりすると、どうしても歯ブラシが届きにくく、食べかすや歯垢が残りがちになります。歯並びが整うと清掃率もアップし、虫歯や歯周病予防につながることで歯の寿命を長くすることにもなるのです。
2.顎や顔の適切な成長発育を促す
歯並びの歪みで、噛むときにかかる圧力(咬合圧)が均等でないと、部分的に負担が大きくなったりすることがあります。これが影響し、顎の成長や顔貌に左右差が出る要因にもなってしまいます。歯並びを整えるためには歯列弓のバランスも整えるため咬合圧に左右差が無くなり、特に成長期であればバランスよく適切な成長を促すことにつながります。
3.消化を促し健康な身体になる
歯並びが悪いと食物を上手く噛むことができません。そこで丸呑みの原因にもなり、消化不良になったり肥満の原因にもなってしまいます。歯並びを整えしっかりと噛むことができれば、身体が食物の栄養をしっかり吸収でき、健康的な生活をおくることができるのです。
4.頭痛や肩こりの改善につながる
歯並びの歪みから咬合圧のバランスが崩れると、発育のバランスが悪くなることから、筋肉の緊張を招くことがあります。これにより頭痛や肩こりの原因になることもあるため、どんなに整形外科や整骨院に通っても治らなかった頭痛や肩こりが治ったという方もいらっしゃいます。
5.前向きな性格になる
歯並びが悪いことで思い切って笑うことができず、手で口元を覆ったり、常にうつむき加減で生活する方もいます。口元が綺麗に整い、顔貌の左右差などが解消されることで自信がつき、人前でもしっかり顔をあげてニッコリ笑顔ができるようになれば、自然と気持ちもプラス思考で前向きな性格になるでしょう。
6.将来的に永久歯の寿命を永く保つことにつながる
先にご紹介したように、歯並びが悪いと虫歯や歯周病のリスクは高くなってしまいます。歯並びが整いリスクが低くなれば、それだけ自分の歯の寿命を伸ばすことにつながります。高齢になっても自分の歯が沢山残っていれば、しっかりと噛むことができ、おいしく食事を摂る事ができますよ。
歯列矯正をするために知っておきたいQ&A
歯列矯正を受けるにあたり、さまざまな予備知識を持って診査や診断を受けることで、矯正法を検討するうえで役に立ちます。ぜひ事前に、矯正治療に関する正しい知識を持って矯正相談に行かれることをおすすめします。
Q1:なぜ歯並びが歪んでしまうのか
ヒトは生まれてから母乳を吸う運動に始まり、鼻で呼吸することや食物を摂取する運動を踏まえて顎の成長と共に歯が生え、永久歯に交換します。 これらは生後すぐから12歳ころまで成長を続ける過程の中で、何らかの不具合が生じることによってスムーズな成長を妨げられることがあり、それが顎のゆがみやズレ、歯並びの悪さにつながるのです。ですから、小児矯正の中には、この顎の成長にも寄り添いながらおこなう矯正法も検討されることがあるのです。
Q2:矯正を始めるべき時期は?
これは矯正歯科医の中でも考えがさまざまで、正解を決めるのは難しいとこです。 歯列矯正の方法はいくつかあり、以前は顎の成長が終了する頃まで待って矯正を開始する方法が多くありましたが、最近では顎の成長途中の段階から、顎の成長を促す装置を併用し成長を誘導しながら歯を並べていくという方法を実施している歯科医も増えています。 矯正開始のタイミングは、お子さんの年齢や生活背景や環境なども考慮して決めることが大切ですので、個々に信頼できるかかりつけ歯科医としっかり相談して決めていただきたいと思います。
Q3:矯正の方法はどんな種類があるの?
歯列矯正には、矯正の自由度や見た目、価格などにより装置の種類はさまざまです。方法としては主に、歯にブラケットという装置を装着し、ワイヤーを通して歯並びを整える方法が一般的です。その中で、顎の矯正が必要であれば併用して装置を使用することもあります。通常ブラケットを歯の表に付けることになりますが、希望によって目立たないように透明ブラケットを使用したり、歯の裏側に装置を付ける方法は選択可能な場合もあります。 また最近では、装置自体には力を加えるようなことはなく、マウスピースを装着して歯に圧力を加えて歯並びを整える方法も増えてきています。しかしこちらはすべての歯並びに対応できる訳ではありません。 どのような矯正治療をおこなうかは、矯正歯科医での精密な検査・診査、診断を経て提案されます。
Q4:なぜ、子どもの矯正は長くかかるのか
子どもの頃から歯列矯正を行う場合、矯正期間が長くなるイメージがあるようです。 これは、小児矯正には第一期治療と第二期治療にわかれ、歯並びの形態や顎の成長によって治療法も異なるため、開始から完全終了までトータルで考えると長くかかるためです。
・第一期治療
乳歯と永久歯が混合している時期(混合歯列期)に顎の成長のバランスをコントロールする治療をおこないます。6歳から10歳ころに始めることが多く、1年前後の期間を目安に顎の成長を促しながら永久歯への交換をスムーズにいくよう誘導します。
・第二期治療
永久歯が生え揃った頃(永久歯列完成期)に開始する治療です。第一期で成長を促し整えた顎にブラケットとワイヤーを用いた矯正法で、1年半から2年半くらいの期間かけて動かしていきます。 第一期治療の後、第二期治療を開始するまで数年待って開始することもありますし、ブラケット治療後も後戻りしやすいため保定装置を入れて置く期間も考えると、とても長く感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、お子さんは整えた歯が後戻りしやすいため、長い目で見ながらゆっくりと治療や保定をおこなうことが必要となります。
小児矯正の装置別 治療のメカニズム
では具体的に、歯を並べるためにどんな装置でどのように誘導するのかを一般的な治療法でご説明します。歯並びは十人十色でさまざまなため、いろいろなアプローチの方法があります。参考までにご覧ください。
1.拡大装置による顎や歯列弓の拡大
6歳頃から乳歯が抜けて永久歯に生え変わり始めます。「混合歯列期」と呼ばれるようになる時期です。上下の歯列弓の成長が弱く永久歯がスペース不足により並ばないであろうと推測される場合や、すでに前歯が重なって生えている場合などに、歯列弓を広げるための拡大装置を装着し、徐々に顎を広げながら歯並びの交換を誘導します。
2.ブラケットとワイヤーによる歯並びの調整
第一期治療で顎や歯列弓を整えた後、永久歯の歯並びがデコボコしていたり、噛み合わせにズレがある場合、ブラケットとワイヤーを用いて並びを整えます。 歯の1本1本にブラケットという装置を取り付け、正しい歯列弓に合わせた形状記憶型のワイヤーを通して固定し、歯を正しい位置に誘導するシステムです。 大人の矯正では成長が完了している顎や歯列弓に歯を並べるため、スペース確保のために抜歯をすることも多いのですが、小児矯正で第一期治療から始めている場合、顎と歯列弓がある程度整えられているため、抜歯することなくワイヤー矯正することができます。
3.マウスピースによる歯並びの調整
ひとくちに「マウスピース矯正」といっても、いくつか種類があり目的にも若干違いがあります。共通しているのは、取り外しが効くマウスピースを一定の期間(時間)装着して歯に少しずつ圧力をかけることで、正常な位置に誘導するという装置です。 拡大装置やブラケットワイヤー装置のように拡大・牽引はできないため、重度な重なり部分や顎や歯列弓の形に問題がある歯並びの場合にはマウスピースだけでは難しい場合もあります。軽度なデコボコの歯並びを治す際には有効的な装置です。 また、小児矯正の場合は、お口の機能を向上させるための訓練もしながら歯を並べるためのマウスピースもあります。この場合、第一期治療からマウスピースを提案されることもあるでしょう。
4.治療法の選択に関して
治療法は、矯正歯科医が個々に取り入れている技法によって、使用する装置が異なります。ですから、マウスピース矯正が希望であるのに、拡大装置とブラケットワイヤーの矯正を主におこなっている歯科医院を受診しても希望の治療が受けられないことになってしまいます。 歯並びによっては希望通りの治療法でおこなうことができない場合もありますが、さまざなな選択肢を知り、どのような治療法をおこなっているか事前に歯科医院のHP等で調べて来院する医院を決めるのも方法のひとつです。 親御さんと治療を受けるお子さんが納得のいく治療法に出会えることが一番です!
小児の歯列矯正にかかる費用の目安
歯列矯正は保険適応外の治療となるため、高額なイメージがあるでしょう。矯正を行う上で費用は気になることのひとつではないでしょうか?
一度に大きな金額を納める必要はありません
矯正は確かにトータルの金額でいくと高額な費用になることもあります。しかし毎回受診するたびに高額な支払が続く訳でもありません。 主には最初の相談料、次に精密検査や診断料、そして装置を装着する時にかかる費用が数万円から数十万円と大きな金額になることが多く、定期的に来院し診察を受ける場合には数千円ずつというシステムがほとんどです。
小児矯正治療費の目安
小児矯正の場合は第一期治療と第二期治療に分かれていることが多く、歯並びの症状の度合いや使用する装置によって金額が異なってきます。あくまでも目安として参考にお考え下さいね。
<費用としてかかる項目>
・初診料(相談料) ・診査・診断料 ・第一期におこなう矯正装置料 ・第二期におこなうブラケットワイヤー矯正装置料 ・定期診査・装置誘導料 ・撤去後の保定装置料 ・保定期間の定期メンテナンス 第一期が30~50万円程度、第二期が40~60万円程度が目安の金額になります。 細かい金額の設定は矯正歯科医院ごとに異なったり、お子さんの歯並びの状態や使用する装置の金額によっても異なります。
お子さんの歯を生涯健康に保つための先行投資と考えましょう!
確かにトータル金額を考えると、保険の効く虫歯治療などに比べればとても高く感じると思います。しかし、歯並びが悪いまま生活していると、いずれ大人になって虫歯や歯周病で歯への負担をかけることになりますし、早いうちに歯を失う原因になってしまうかも知れません。そうなれば歯の根っこの治療で長期通院することになったり、抜歯して差し歯や入れ歯、インプラントになるかも知れません。また、しっかり食べることができなくなるとヒトは老化が進行します。顔貌も老けて見えてしまいますし、消化不良や肥満の原因にもなり、身体の健康面にも支障を及ぼす可能性もあります。 結局は治療費がたくさんかかった上に、歯を失い不自由をすることになるのであれば、幼いころから歯並びを整えて歯を生涯健康に保つための治療をおこなうほうがよいと私は考えます。みなさんはどう考えますか?
まとめ
現代のお子さんは7割の小学生が学校検診でも不正咬合とされている現状があります。 一見見た目が綺麗でも、奥歯がきちんと噛み合ってなければ食べ物はきちんと噛んで飲み込むことができません。また、お口の機能が弱ければ、歯並びをいくら矯正しても後戻りしやすくなってしまいます。 お子さんの歯列矯正を考える際には、ついつい期間や費用面に目が行きがちですが、お子さんが治療するにあたっての年齢や生活環境(現状)、生活背景も視野に入れながらの矯正治療が大切です。焦らずゆっくり、お子さんのペースも考慮してあげてくださいね。 お子さんの成長や健康、将来的なフレイル(老化)予防にもつながるような矯正治療に出会えることを願っています!