by 418編集部
「妊娠中、歯科健診を受けましょうって言われるけど、いつ行けばいいか解らなくて、結局行かないままだった」 とっても衝撃的な発言でした。妊婦さんにはどこの自治体でも、たいてい妊婦健診に歯科を導入しているのに…。 私自身は歯科衛生士ということで、妊娠中何もためらうことなくタイミングを見計らい、市の助成券を使って歯科検診を受けました。 友人の発言を聞いて、実は妊娠中の歯科受診について、あまり理解している人は少ないのでは?と思うようになり、このことをコラムでお伝えしよう!と思ったのです。 そこで今回は、妊娠中の歯科受診のタイミングについてや、妊娠期に起こりやすいお口のトラブルなどについてご紹介します。 「妊娠したら、お口も大切にして欲しい!」という願いを込めて…。
なぜ妊娠中に歯科検診することが推奨されているのでしょうか
自治体によって補助の方法に違いはありますが、妊娠中に一度は歯科検診を受け、お口の状態を確認しておくことが推奨されています。 そこで、なぜ妊娠中に歯科検診することが大切なことなのかということをご紹介します。
身体の変化から起こるお口のトラブルを回避する
妊娠すると、ママの心と身体に大きな変化がいくつも起こります。 ホルモンバランスの変化や身体つきの変化で不安なことが増えたり、ストレスを感じてしまったり…。そしてその変化は、お口の中も例外ではないんです。 妊娠前から抱えていたトラブルが酷くなってしまうということもあるでしょうし、妊娠によって起こるお口の中の変化が引き金となって、全身に悪影響として現れることもあります。 ですから、妊娠中にお口の中の症状が悪くならないように歯科検診を受け、お口の環境を整えることも赤ちゃんを迎える準備のひとつなのです。
ママだけじゃなく、ベビーがすくすく成長するために必要な歯科検診
ママが妊娠中に歯科検診を受けてお口のトラブルを解決しておくことは、これから産まれてくるであろうお腹の中の赤ちゃんのためにも大切です。 妊娠経過を順調に過ごすためにも関係しますし、産まれた後のベビーに影響することを予防するためでもあります。 ママが健康なお口でいることは、ママ自身を守るだめだけでなく赤ちゃんのこれからの成長にも、とってもハッピーなことなんです!
妊娠中に発症しやすいお口のトラブルってどんなことがあるの?
では実際に、妊娠することによりどのようなお口のトラブルにつながることがあるのかをご紹介します。 つわりやホルモンバランスの変化、生活習慣の変化などから起こる妊婦特有のお口のトラブルを知っておくことで対策をすることにもつながりますよ。
虫歯になりやすくなる(もしくは進行が速まる)
妊娠中は女性ホルモンの影響を受け、唾液の分泌量が減少したり、唾液の性質にも変化が起こる場合があります。そこで、本来お口の中を自然に洗い流す働きである自浄作用(じじょうさよう)が弱まってしまいます。 また、つわりの影響によって食事の回数が増えたり、食べると気持ち悪くなる食べ物などが増え、偏った食生活になることもあります。 そんな中、歯ブラシをお口に入れることすら抵抗を感じる場合もあり、お口の環境は不衛生になりがちです。 このようなさまざまな要素が重なって、非妊娠時よりも虫歯発生や進行してしまうリスクが高くなってしまうという悪循環が起こりやすいのです。
妊娠性歯肉炎(にんしんせいしにくえん)
妊娠がわかったあと歯肉炎や歯周病になった、または悪化したという方をよく耳にします。 中には、50%の妊婦さんが「歯ぐきから出血しやすくなった」と感じているという統計もあります。 つわりなどで歯ブラシを入れることに抵抗を感じ、毎日の歯みがきがおろそかになってしまうのは仕方の無いことです。ただ、その結果お口の中が不衛生になったり、間食や食事の回数が増えることも歯肉炎になってしまう原因のひとつです。 また、妊娠すると唾液の分泌量が減少し自浄作用が働きにくくなります。そして虫歯菌や歯周病菌の繁殖しやすい環境になることも原因だと考えられています。
妊娠性エプーリス
歯ぐきにできる良性の肉腫のことを「エプーリス」といい、妊娠中に起こる身体の変化が原因で発生したであろうエプーリスを「妊娠性エプーリス」と呼びます。 一番の要因は、妊娠中の女性ホルモンが影響すると考えられていて、歯ぐきに強い赤みを帯びた膨らみができ、軽く触っただけでも出血しやすくなっています。 通常、エプーリスができると切除する必要がありますが、妊娠性エプーリスは出産してホルモンバランスが整うと自然消滅することが多いので様子をみることがほとんどです。 ただし、放置しておくと歯周病と並行して悪化することもありますので、対処法を歯科医院で相談するようにしましょう。
妊娠時期別・起こりやすいトラブルの解析と対処方法
妊娠中はお口にトラブルを抱えやすい時期とはいえ、生まれるまでの40週の間ずっとという訳ではありません。 妊娠時期別に起こりやすいトラブルを妊娠初期・中期・後期に分けて解析してみましょう。その時期に合わせてどう乗り切ればよいのかということや、歯科受診のタイミングの参考にしてみてくださいね。
妊娠初期(4週~15週)に起こりやすいトラブル
妊娠初期は女性ホルモンの分泌量が急激に増えます。その影響を受け、唾液の分泌量が低下しお口の中を中和する作用も低下します。そこで妊娠中もっともトラブルが起こりやすい時期と言えるかもしれません。 実際、虫歯や歯周病が起こったり、口臭やネバつきに悩まされるという方も多いようです。 もちろん歯科医院に行くことはできますが、つわりは特に妊娠初期にピークを迎えています。仰向けで診療台に長時間寝ることや、お口の中に機械や器具が入ることにも抵抗を感じる方が多いでしょうから、無理に受診する必要はありません。 ただつわりが無い方であれば、この時期はまだお腹も大きくなく仰向けの姿勢が辛いといったこともない時期でしょうから、お口の不具合が気になったら歯科医院を受診してくださいね。その際には妊娠初期は気づかれにくい時期ですので、問診で妊娠中ということを伝えるのを忘れずに。
無理はしないで! 妊娠初期の歯磨き対策法
歯磨きは毎日が理想ではありますが、この時期つわり辛い方も多いでしょう。しばらくは1日のうちで体調の良い時間があればそこで歯磨きをします。 ヘッドの小さい歯ブラシを準備し、小刻みに動かして磨きましょう。 若干下を向いて前かがみになったほうが気持ち悪さを軽減する姿勢です。歯を磨くときに舌に歯ブラシが当たらないように注意が必要です。 歯磨き粉フレーバーやスーッとする爽快感が苦手な場合は水だけで歯を磨いたりするようにしましょう。 もしも歯磨きがまったくできない程気分がすぐれない場合には、デンタルリンスなどを上手に活用してブクブク含んだうがいをすると効果的です。
妊娠中期(16週~27週)に起こりやすいトラブル
赤ちゃんが安定し、つわりも落ち着いてくる時期ですね。だんだんお腹が大きくなるにつれて胃が圧迫され、一度に食べる量が少な目ですぐにお腹が空くという人も増えてくることでしょう。 そのようなことから、間食が増えたり食べ物の好みが偏って無性に食べてしまうなど、妊娠中特有の食好みが出るという人が増える時期です。 妊娠中は唾液の分泌が減ることでお口の中を自然に洗浄する自浄作用(じじょうさよう)が弱まることはお話ししましたね。 お掃除する能力が低下している時期であるのに食べる量や回数が増えるので、虫歯や歯周病のリスクは高くなってしまいますので、引き続き注意が必要です。
歯科検診を受けるなら妊娠中期がオススメ
虫歯や歯肉炎になりやすい時期とはいえ、妊娠中期になるとつわりも落ち着いてくるので歯みがきも通常通りできるようになってきます。そこで虫歯や歯周病対策のため、これまでできなかった人もお口のケアをしっかりとおこないましょう。 この時期はお腹もまださほど大きくなくつわりも落ち着いてくることから、ママは活動しやすい時期です。妊娠後期の大きなお腹になると、通院も受診も辛くなってしまいますので、妊娠中期頃がいちばん歯科に通院するのに適した時期なんです。 妊娠中期といってもあまり後半に歯科健診を受けると、もしも治療でしばらく通院が必要になった場合、妊娠後期の辛い時期にまたがって通院が長引くこともあり得ます。 つわりが落ち着いてきたらなるべく早めに、一度歯科検診を受けることをオススメします。
妊娠後期(28週~40週)に起こりやすいトラブル
この頃になると、お腹もずいぶん大きくなります。 出産準備で忙しかったり、日々の生活が大きなお腹と共に過ごすことで、ついお口のケアまで頭が回らないというママもいます。 中期にせっかく歯科検診を受けてケアしても、ここで継続できないと再度虫歯や歯周病を発症してしまうことにもなりかねません。 また、歯周病は糖尿病の合併症のひとつとも言われています。関係性が必ずあるとは限りませんが、妊娠性糖尿病を回避するためにも、歯肉炎になるのは避けておきたいところです。
出産まであとちょっと! 引き続きお口のケアを継続しましょう
ママのお口の状態が不健康のまま出産となってしまうと、産まれた後の赤ちゃんへお口の中の細菌を移してしまう可能性もありますから、この時期も引き続きお口のケアをしっかりおこなうことが大切なんです。 また、出産までにお口のケアが終了していないと、産後は赤ちゃんのお世話で忙しくなり、これまでのように歯科を受診できなくなってしまいますので、出産までに通院を終わらせておきたいものですね。
歯科を受診するときに気をつけておくべきことはある?
いざ歯科医院に検診に行くことになったとき、気を付けておくべきことをまとめてみました。ママが安心して受診できるよう、ぜひ参考にされてくださいね。
妊婦さんへの歯科治療と受診時期の目安
原則的に妊娠中のどの時期にどの治療はおこなえないといったような決まりはありません。 ただし、先にお話ししたように、妊婦さんの体調やお腹のことを考えて、推奨される時期は妊娠中期がよいとされています。 ただ、歯科医院側が妊娠の週数などから判断し、歯科の処置を行える範囲の目安を決めている場合もあります。 たとえば、妊娠初期は流産しやすい時期ともいわれていますので、妊婦さんが過度に緊張することや長時間仰向けに寝ていなければいけないような処置は控えます。 虫歯が見つかった場合には応急処置にとどめておき、妊娠中期に入ってから正式に治療するというケースも多くみられます。 同じように妊娠後期に入ってからはじめて虫歯治療に来られた場合には、出産までは応急処置をしておき、産後正式な治療をするという方法が多いでしょう。ただし産後に治療をするとなると受診しにくくなるママが大半ですから、安定期までに積極的に受診されることをオススメします。
妊娠中の歯科受診にも母子手帳を持参しましょう
妊婦健診の際には忘れず持参すると思いますが、歯科受診の際には忘れがちな母子手帳。 妊娠していることを伝えれば、問診表にも妊娠週数や主治医の先生、歯科に関する希望など詳しく記載を求められると思います。その際に母子手帳が必要になることもあります。 また妊婦歯科検診であれば、妊娠中のお口の状態を記録してもらうこともできますし、歯科医院側も処置の際にママの妊娠中の状態を把握して処置に臨みますので提出を求められることになるでしょうから、必ず持参しておくようにしましょう。 歯科でも症状によっては飲み薬が処方されることもあります。原則的に歯科医院では妊婦さんへの投薬はしないことになっています。特に妊娠初期はお薬に注意を払いたい時期ですので、問診の際には自分が妊娠している(もしくはその可能性がある)と伝えることを忘れないようにしてくださいね。
妊娠中の歯科受診に関するQ&A
妊娠中の歯科受診に関して、マタニティーママがよく迷うことや疑問点をご紹介します。 事前に解消できる疑問点は解消して、少しでもリラックスして歯科受診してくださいね。
レントゲン撮影は赤ちゃんに影響はないの?
問診の際に妊娠中であることが解っている場合、歯科ではよほどのことが無い限りレントゲン撮影は行わずに診察します。 ただ、虫歯が深かったり、歯ぐきの内部の異変など、どうしてもレントゲン撮影が必要な場合にはお腹の赤ちゃんを守る対策をとったうえで撮影することがあります。 歯科のレントゲン撮影の場合、首から上の部分に歯科X線が当たることはありませんが、妊娠している人(もしくはその可能性がある人も含め)には防護エプロンを着用してもらい、腹部にX線が当たらないように遮断して撮影をおこないます。 また最近ではデジタルレントゲンを導入している歯科医院も増えています。通常のX線よりも10分の1程度の線量での撮影が可能なため、事前に歯科医院に確認しておかれるのもよいですね。
仰向けにならなくても診察を受けることはできますか?
妊娠中は仰向けの状態が長いと、お腹が張ったり嘔吐反射が強くなったりすることがあります。また、急に起き上がって立ちくらみを起こしてしまったりすることもあります。 できるだけ楽な姿勢で、起き上がる等の動作もゆっくりおこなうようにしましょう。 お腹の大きさや妊娠の経過にもよりますので一概にはいえませんが、歯科用診療台によっては背中が座った状態にお好みの角度に起こせるタイプのものがあります。 あまり倒し過ぎない姿勢や楽な体位を取ったまま診察可能な場合もありますので、遠慮せず歯科スタッフに申し出ましょう。
歯科治療でおこなう麻酔は受けても赤ちゃんに影響はないの?
一般的な歯科治療で使われる麻酔は局部的な麻酔です。 通常量であれば母子ともに歯科麻酔薬による影響は全く心配いりません。 ただしもともと歯科に対する恐怖心が強い場合、麻酔するということ自体で緊張感が増してしまい、お腹の張りや流産につながってしまう恐れもあります。 妊娠中はなにごとも遠慮せず、なんでも気軽に歯科スタッフへ相談してくださいね。
妊娠中に抜歯することは可能ですか?
妊娠中の歯科治療に関しては、過度の負担は避けるようにしています。 抜歯は心身的にも負担が大きくなる可能性が高く、投薬が必要な場合も多くあります。 ですから妊娠中には、たとえば親知らずや矯正に伴うような抜歯を積極的におこなわないようにしています。 どうしても緊急的に抜歯するしか方法が無いというような事態の場合には、歯科医師とよく相談の上で抜歯を受けるようにしましょう。
歯科医院から出されたお薬は飲んでも大丈夫?
薬に関しても、原則的には歯科から投薬があることはほとんどありません。 ただし痛みがひどく、ママがお薬を飲まずに我慢するストレスのほうがお腹の赤ちゃんにとってもよくないと判断した場合、投薬があるというケースも考えられます。 その場合には産婦人科の主治医に連絡を取り投薬が行われることも考えられますので、妊娠中はかならず事前に妊娠していることを告げるようにしましょう。 お薬はすべてが赤ちゃんにとって悪影響を及ぼすわけではなく、用法・容量を守って使用するのであれば問題なく使用できるお薬もありますので、辛い時には我慢せずに相談してくださいね。
まとめ
妊娠中はつわりにはじまり、体調や体形の変化や毎日の生活の中で「歯科検診を受ける」というところまで気が回らないという人も多いようです。 しかし、実はママのお口が健康であることは、妊娠経過を順調にしてくれますし、産まれてくる赤ちゃんの健康にもつながってくるのです。 まず母子手帳を受け取ったら、妊婦健診と併せて歯科検診の時期も考えてみてくださいね。 キレイなお口で素敵な笑顔のママに会えることを、きっと赤ちゃんも楽しみにしていると思いますよ♪ ※この文章の中で「けんしん」という言葉の漢字に違いがあります。 妊婦健診…「妊産婦健康診断」ですので「健診」 歯科検診…「歯科検査・診査」ですので「検診」 このように区別し、あえて漢字の使い分けをしています。